断章:虎

断章:虎


「・・・そうか、寂しくなるな」


「ま、自分で決めたのならいいんじゃないですかぁ?」


鼠は惜しむ


牛は送る。


「大丈夫ですよ! 彼女ならきっと生きていけます!!」


「あっ、ロリがいたらつれて来てね」


兎は励ます


竜は願う


「ま、気が向いたらこっちにいつでも戻って来なさいな!!」


「そうだな、我々はお前ならいつでも歓迎しよう」


蛇は逃す


馬は促す


「でも寂しいな・・・こいつとかずっと泣き止まないし」


「うワーン!!! やだぁ!!!」


鳥は呆れる


犬は嘆く


「であるがそれが願いなら止める事はできないでござる・・・そうでごさろう? 猿城どの」


猪は聞く


「うん! 元々私が勝手に巻き込んだような物なんだし・・・本人の願いなら尚更だよ! だから頑張ってね・・・恋虎・・・ 










いや、ツキ」



人は託す


「当たり前よ!! 色々な世界を見てくるわ!!」


猫は受け取った。


※※※


「それにしても大丈夫か・・・恋虎」


「空鼠君は心配なんですか?」


うろうろしている様子の空鼠を見て毒兎は話しかけた。


「考えてもみろ、森の外には猿城以外の人間がうじゃうじゃ湧いている」


「まぁ・・・そうですけど流石に心配症すぎでは・・・」


「いいや、アイツらはダメだ、本質は我らと構わないのに自分達の方が上だと信じて疑わない、さも愛してる様子を見せる奴らも大前提として見下し決して目線を合わせる事は無い・・・あのような存在、関わるだけ害悪だ、それに何度も懲りずに来るあいつらも・・・」


「ちょっと過激すぎる気もしますけどね・・・まぁ空鼠君は僕達の中でも新入りですし、そんなに気を張らなくても大丈夫ですよ」


二人は知らない

いずれここに獣の肉体を持った人間が来る事を


そしてそれが原因で大事件に発展する事も


彼らは知らない


※※※


「・・・あっはは、そっか、そういう事だったんだ・・・!」


桜宮六月はある日記を見ながら呟いていた。


「ふわぁ・・・六月どうしたんだ?」


その時背後から昼寝をしていた猫天与・・・ヨウが六月に話しかける。


「ねぇ・・・ヨウ、聞きたいことがあるんだけどさ」


「どうした?」


六月は問い詰めるようにヨウに聞く


「・・・なんで私を、ここに連れて来たの?」


「・・・えっ? なんで今更そんな事聞くんだ?」


ヨウは困惑した様子を見せる。


「・・・出雲月跳」


「なんでその名前を・・・っ!? まさか!!」


「見たよ」


六月の手にはヨウが今までの記録を書いていた日記帳が握られていた。


「なんでだ・・・!? しまったはず・・・!」


「ねぇ、ヨウ」


六月の声は完全に冷えている


「私を拾ったのって私がこの出雲月跳とツキって人の生まれ変わりだから?」


「待て!! それは・・・!!」


「最初から私の事を代用品としか見てなかったんだ!!」


六月の声がどんどん荒くなっていく。


「おかしいと思ったよ!! なんで態々こんな髪と目の子供拾ったのかって!! お父さんもお母さんもヨウも!! 私は出雲月跳の代理でしか無かったんだ!!!」


「待て・・・‼︎ それは違・・・!!」


「もう放っておいてよ!!!」


その言葉と共に六月は家の外に駆け出した


「・・・六月!!! いや、俺が追っても逆効果か・・・」


ヨウはスマホを取り出し誰かに電話をする


※※※


「はぁ・・・はぁ・・・何やってるんだろう・・・私」


桜宮六月は一人公園で黄昏ていた


(ヨウに理不尽に当たって・・・拾われただけでもありがたいのに我儘言って・・・こんな子最初から捨てられて当然だよね)


ちらっと横を見る、そこには誰かの忘れ物か頑丈そうなロープが転がっていた。


「・・・いっそ」


六月はロープを公園にくくり付けて輪っかにする、そしてそのまま首を・・・


通した瞬間に銃声が聞こえロープが千切れ落ちる


「あっぶなぁ!!! 馬鹿な事するんじゃねぇ!!!」


「・・・毒兎?」

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